Key作品の感想など

MOON.雑感

※ネタバレがっつり有り

「MOON.」をクリアし、音楽モードで「陽のさす場所」を流しながらWordを立ち上げた。
サマポケで「Keyっていいな」「ゲームっていいな」「麻枝 准っていいな」が極限まで振り切れた結果、ずっと先送りにしていた「MOON.」と「ONE~輝く季節へ~」を今こそやろうと思い立った。
そもそも中古で買うしかないと思い込んでおり、自分のWindows7で動作するかも分からないソフトに高値を出すのには気が引けていた、それだけだった。今回よくよく調べたらDLsiteにダウンロード版があった。
2作合わせてもさらば諭吉!には至らない程度で拍子抜けした。まさか自分がDLsiteでエロゲを買うとは・・・(女なので)と思いつつインストールを終えた。
この間ONEが20周年で盛り上がっていたし、その後もTL上でONE語りを日常的に見ていたからまずはONEだと思いとりあえず攻略順などを調べていたら、ONEは麻枝さんが23歳の時に作ったゲームだという情報が目に飛び込んできた。
それは22歳の私にとって衝撃的な事実だった。最近麻枝さんの新しい作品に接すると、自分よりも麻枝さんに近い感覚で言葉を受け取れる40代の方々が羨ましいと思うようになった。羨ましいというか、早くその年齢になってその歌を聴いてみたい、早く追いつきたい、とかそういう考えが浮かぶようになった。
気付かぬうちに私は過去の麻枝さんになら追いついていた。盲点だった。しかし、ということは、ONEより前に出たMOON.はもしや・・・。
当たっていた。新卒で入ったゲーム会社を早々に退職し、新たな会社で麻枝さんが初めて企画し世に送り出したゲームが「MOON.」だった。
年齢を言い訳にできない分、突きつけられる彼との距離に絶望するかもしれない。急にそう思って少し躊躇した。それでも今しかない。これは自分の運命が課した試練かもしれないし、単純に22歳の麻枝さんの原点に22歳の今踏み込めるのは贅沢なことだ。だから翌朝からプレイしようと決意して昨夜は寝た。
そして日曜日の今日、朝から夕方までFARGOの施設で過ごし、帰ってきた。

私は・・・。
生きようと思った。強く生きよう。どんな過去も、どんな痛みも、なかったことにして忘れないで、そこにいた人たちを忘れないで、受け入れて、胸にそっと閉じ込めて。
自分の精神から、過去から逃げないで、美しい思い出に逃げないで、そうしてここから生きていく。この日常の世界で未来へ向かって生きていく。誰かに、おかあさんに甘えないで、私という人間の強さで生きていく。
葉子さんと同じ22歳、私にもまだこれからやれることがある。目を覚まそう。生きていこう。そのための力を郁未たちに貰えた気がする。

このゲームを企画した人は、人間は強い、生きていることは素晴らしい、ただそのことを真っ直ぐ信じている・・・いやもしかしたら真っ直ぐには信じられないからこそ曲がりくねった果てしない道を歩き続け、そうしてやっと誰よりも強くそれを肯定し、信じさせる、麻枝さんはそういう人だと思った。
久弥さんとの合作である以上、どこまでが麻枝成分なのかは分からないし、そもそもテキストが全て作家個人の想いを反映しているわけもないけれど、今まで麻枝さんの色々な作品に接してきてその原点にやっと触れたのだから感じ取れてしまう。麻枝さんは人間の強さを信じている。生を肯定している。最初からずっと、物凄い強度で。
このゲームの向こう側にいる麻枝さんと私は同い年、というのは常に意識はしなかったけれどハッとするテキストに出会うたび思い出した。神と張り合うつもりはないけれど、やはり今の私からは絶対に出てこない言葉だなあと思った。それらが久弥さんのテキストだったとしても同じことで、今の私が当時の久弥さんの年齢であろうと私にそれは書けない。
それはプレイ前に想定していたような絶望ではなく、なんだか嬉しいことだった。憧れの人がやっぱり届かない存在であること。彼らの作品に巡り合えた自分。自分も一応彼らと同じ人間であるということ。
先日のKSLライブやSatsubatsu Kids(麻枝 准×ひょん)の「Hikikomori Songs」リリースイベントで、自分より遥かに大人の方々が燃えさかる麻枝愛を全身から放出させている姿を見て感銘を受けていたけれど、古参の鍵っ子あるいは麻枝信者のおじさま達からしてみればMOON.やONEやKanonを通して麻枝 准という若き青年の天性に魅了されたところから全てが始まったわけで、そりゃああれだけ熱狂するし場合によっては人生懸けるよなと急に物凄く納得した。

それでMOON.というゲーム、すごく面白かった!とても好きだった!
想定より短かったけれど、コンパクトな中にしっかりとメッセージが詰め込まれていて良かった。まあ多分私がプレイしたのは新しいバージョンでマップ探索がしやすかったのと、思いっきり攻略サイトを見てCGコンプ無視で進めたから速かっただけで本当はもっとボリューミーなゲームなのだろう。バッドエンドの分岐にはとても耐え切れる自信がないから今後もやらないつもりだ。
まず驚いたのはオープニング。アニメじゃん!あれも実は新しいバージョンで追加されたのだろうか。だとしても古いノベルゲームでアニメが長時間流れるのは想定外すぎて感動が止まらなかった。
晴香と由依との出会いは体感的には20日前のことだからかなり懐かしく感じる。晴香は出会った瞬間からすごく好ましくて出会いに感謝したし、由依はいささか賑やかすぎるけれど一緒になれて安心した。いたるさんの立ち絵が本当に可愛くて、特に晴香は自分の理想のヒロインそのもので最高だった。服装もことごとく好みで、00年前後のコミケに行ってMOON.コスのレイヤーさんを撮りたいという感情で一杯になった。(余談だけれど途中なにかのCGで「Tactics」のロゴが入った服が登場して大いに笑った。)その後出てくる男子勢もかっこよくて流石だった。
最初から緊迫感がすごかったけれど、晴香が「仲良し三人組で2泊3日の香港足裏マッサージツアーに来てるわけじゃないのよ」的なことを言った瞬間この作品は紛れもなくKeyの源流だと感じて安心した。
それでFARGOの適性検査を受けて、真実を求めるあの日々が始まったわけだけれど、1997年に発売したゲームとしては予想以上に攻めた設定に思えて、逆に危うさなど度外視で強い意志を持ってこの内容を企画したのかなと感じた。私は当時1歳だったからなんとも言えないけれど・・・。
郁未が始めたのは過酷な旅で、施設は怖いしMINMESでの訓練も恐ろしいし葉子さんはとっつきにくいし少年も微妙に怪しいし晴香の変貌から察せられる別棟の状況もおぞましかったけれど、非日常的な閉鎖空間で暮らして動き回るのは謎のワクワク感があって楽しかった。
日が変わるごとのタイトル表示がAngel Beats!の9話のようで、地下通路もAB!的なダンジョン感があって、そこらへんで割とテンションが上がってしまったのもある。
しかしながら郁未のELPODで一気に精神をやられてしまった。屋外で排泄している過去の郁未を見るだけなのに、自分自身が恥辱を受けていると錯覚するほどの痛みがあった。
それとは別ベクトルのキツさが由依の凌辱シーンにはあり、そのような感じでこのゲームの2軸のエロシーンがとにかく最後まで精神的に辛かった。一応凌辱系エロゲとして売り出された作品だけれどユーザーは皆こんな気持ちになっていたのだろうか。自分が女だからこそ辛さを過剰に感じたのだろうか。それならそれで良い条件でプレイが出来てラッキーだったと思う。
序盤は由依と友里の物語だったけれどエロシーン以外もひっくるめて全部辛かった。Key作品でよくいるちょっと痴呆っぽいヒロインやめっちゃ叫ぶヒロイン、サマポケにはいなかったから反動でウッとなったのも地味にダメージだった。元凶は由依を襲った暴漢なのに由依が家族崩壊の元凶扱いされるのは可哀想で見ていられなかったし、由依に殺されかけた友里が全てを忘れ去った由依に直面するのも可哀想で見ていられなかった。
それでも、忘れたままでいたかったはずの過去を思い出し、受け入れる強さを得て「頑張る」と決めた由依は強くて眩しかった。最後の最後で心を解き放ち、由依の願いを叶えて潔く死を遂げた友里はかっこよかった。悲劇だけれど決して悲劇ではない、美しい姉妹の絆だった。
由依が友里に縋りついて何度も何度も「お姉ちゃん」と呼ぶシーンはこみ上げるものがあり、これがKeyの原点だとしみじみ思った。
そこから次は晴香の話につながっていくわけだけれど、その間にも郁未の訓練や少年との関わりは続いていて実に色々なことがあった。あくまでメインはマップ移動で紡ぐ午前・正午・午後・夜だというのがなんというかやっぱり面白かった。サマポケのMAP散策も面白かったからそういうのが好きなのかもしれない。
しかしまあ、MINMESもELPODも段階が進むにつれ苦しくなっていったし、晴香絡みの凌辱シーン、つまり高槻登場以降が本当にきつくて参った。そんな時にはどうしても同居少年にほっとしてしまうし、ふとした瞬間に流れる折戸さんのちょっと日常っぽいBGMに救われた。
そう、季節感もクソもない暗い施設に流れる折戸さんのBGMというのが、その後のKeyを知っている身としてはなんだか変で、でも絶妙にマッチしているのが不思議で良かった。
晴香の結末は大変辛かった。良祐の最後の抵抗が悲しかった。由依と友里のような時間が訪れるでもなく、最後の最後の力で妹を抱きしめて滅んだ良祐・・・。兄としての矜持がとても美しくて悲しかった。
その前の郁未が晴香の性器を舐めさせられるシーンがこの作品で一番えぐかった。やりすぎやろ!つらい・・・。
最後は郁未と少年のターンになるわけだけれど、私は良祐の忠告を聞いてもなお少年への好意は捨てきれなかったし、郁未の妄想話の中の少年がすごく良くて・・・だから少年が郁未を助けたのはすごく良かった。ちょっとここら辺は記憶が混濁しているし語彙力も混濁している。
覚えているのはあの梯子!(笑)下っても下っても最下層に辿り着けない、無限に続きそうな下降。気が遠くなりそうだった。郁未は相当強い意志を持っていると実感した。
それから再会した少年が明かした教団の真実。なるほどなあと思った。詳述するのも野暮だからやめておくけれど、AB!の真実を知る回のような感嘆があった。
少年を救うべく辿り着いた部屋は広大な花畑で、サマポケで見たなと思いつつ郁未が少年を救うのを見届けようとしたがその期待は一瞬で絶たれた。
少年の抹殺を感知した郁未は3日間のDESPAIR、絶望の日々を送る。それまでの午前・正午・午後・夜の時間感覚が染みついていたから、絶望しきった顔の郁未の一日が何の動きもなく一瞬で終わっていくのは異様すぎた。ちょっとCarlotteの7話を思い出した。
そしてついに最終決戦、20日目。異常事態すぎて本当に記憶が混濁しているのだけれどたしかMINMESで少年に会ってすごく良いシーンがあって気力を取り戻して最後の扉を目指して、葉子さんとの再会があった。二人が交流していた唯一の場所である食堂での対決には唸らされた。葉子さんの過去もヘビーだったけれど、外界への帰還に導けた郁未はすごい。今は消費税5%になってるから気を付けてね。えっ消費税って?のくだりに初めて時代を感じて笑った。
食堂といえば、序盤に二人でご飯を食べていたころ、あんな世界観だけれどちゃんと食べ物の描写がなされているところにKeyの源流を見出したりしていたのだけれど、3回目の食事くらいで皿うどんが出てきて本当に驚いた。皿うどんといえば麻枝さん、麻枝さんといえば皿うどんだけれど、皿うどんが麻枝さんの作品に、しかも一番最初の作品に出てきていたことは知らなかった。嬉しかったし、大いに笑った。
それで郁未がラスボス戦に臨んでいる最中かその後で、その頃・・・のようないつものテロップが出て晴香と由依のシーンが挿入された。晴香が生きている姿を見てほっとした。
というかこのゲーム、語り手が女の子という時点で新鮮だったけれど、テロップを挟んで別の女の子の視点に切り替わるのがまた新鮮で、それいいんだ!?と、凝り固まったシナリオゲーム観をほぐされた気がした。
それで、由依があのまま脱出せずにおそらく施設内で信者を救うべく動いていたらしきことが発覚して由依の成長に感動した。その由依が、過去から目を背けようとする晴香に向けた叱咤の言葉が本当に素晴らしかった。もう一回読んで全文書き写したいほど素晴らしかったけれど今はニュアンスだけ心に刻んでおく。とにかくあのシーンがあったから強く生きる意志のようなものが私に伝染した。
郁未のラスボス戦に話を戻すと、黒幕が月だったことでようやく「MOON.」の意味が分かりおお~と思った。郁未は本当に強くて若干チート感があったけれど、今までの郁未を見てきたからそれも然りだと思った。精神を飲み込まれそうになった時助けてくれたのがあんなに忌々しくて怖かったもう一人の郁未だったことにすごくグッときてしまった。
最後の、おかあさんと話すシーン。良かった・・・。
ただただ良かった・・・。
エンディングのタイミングが意外と唐突で、納得は出来るけれど驚いてしまって、エンディング後のエピローグもなさそうだしちょっとどうしようかと思っていたらエピローグはあった。100点満点のエピローグにとても救われた。だからこんなに読後感が良いのかもしれない。
FARGOから解放された今あの施設時代を振り返ると、あんなに辛かったことも含めて全てが大切だった気がしてくる。郁未たちも今そういう気持ちであってほしい。

総評すると非常に良いゲームだった。この作品に似つかわしくない表現だけれど、楽しくプレイできた。
郁未が「自分」と「母」を解き放つ過程に少年との交流があり、晴香と由依と葉子の物語があり、若干粗削りかもしれないけれど全てに意味のある鮮やかなシナリオだったと思う。教団の精神鍛錬も洗脳の手段などではなく本当に精神を鍛えるもので、それが郁未を無意識下で鍛えて最終的には教団に刃向かう力を醸成させたというのが面白い。毎日の訓練を乗り越えたことにきちんと意味があったのは大きい。訓練の内容を全て記憶しているプレイヤーだからこそ特にそう思う。
当時のエロゲというかADV界隈がどのような様相だったのかはもう体感できないけれど、主人公に女性を据えて親子愛を話の主軸にして恋愛要素を最低限にしてエロシーンの“抜き”要素をサブに追い込んだようなこんなゲーム、相当革新的だったのではないか。音楽もしっかりしているし絵も不思議な魅力があって、発売当初にこの作品に魅了された人はさぞ彼らの今後を楽しみにしたことだろう。
その未来を知ってしまっている身からするとMOON.の物語や雰囲気はAB!に近いというかこれこそがAB!の源流だと感じた。一応伏せるけれど核となるメッセージの一つにはサマポケを感じた。Keyから切り離して考えることは私には無理だけれど、Keyを知っているからこそ味わえる深みが沢山あって面白かった。
シナリオの担当区分が全然分からないのだけれど、少なくとも由依のクライマックスは久弥さんな気がする。殺伐とした世界観、ダンジョン探検RPG感、親子愛を基軸とした壮大な生の肯定はすごく麻枝さんっぽいのだけれどその後ONE、Kanonへと続いていくのは由依や晴香のお話のような気がした。久弥さんがメイン説もあるから見当外れかもしれないし、まあ彼らの間には色々あっただろうからこれ以上は考えないでおく。
同い年として言わせてもらえばこれを企画した麻枝 准さん(22)は明らかに天才であり、自分と比べたらまさにMOONとスッポンだ。才能だけでなく、情熱を滾らせて果敢に攻めるファイターのような印象すら直に伝わってくるようなデビュー作だった。麻枝さんが心理学科を卒業したばかりだということを思い出させる要素も多々あった。まあ何が言いたいかって、月が綺麗ですね、麻枝さん。

昨夜はここまで書いて力尽きて寝た。起きたら月曜日が来た。思いっきり寝不足でもう今日は体調不良で施設(比喩)をブッチしようという気持ちしか湧かなかったけれど、その時脳内に去来したのは少年に「おはよう」と起こされて毎日根気強く訓練に通い、寝不足の日も食事抜きの日も仲間と真実のために歩みを止めなかった郁未の強さだった。
過酷な現実にも負けない強さ。リトバスに出てきた言葉だけれど、それを郁未たちに手渡された。もう逃げないで直視するんだ。
寝て記憶が整理されたせいか、朝ご飯を用意する最中にも断片的なシーンの記憶が次々と浮かんでくる。自分のことのように感じられるものも多く、主人公が女性であったことは思っていた以上に自分の感情移入を促進したのではないかと気付いた。
それで今日はMINMES(比喩)に向かい、今日中にこれを書き終わろうと決意した。
Twitterを開くと昨日投稿したMOON.を始めた旨のツイートにそこそこ多めの反応が来ている。希少性もあるだろうけれど、みんなMOON.が好きなのだと思う。私だって今後「MOON.始めた」ツイートを見かけたらいいねするだろう。
MOON.は一定の熱狂的ファンはいるものの人気としてはONEの影に隠れているようなイメージだった。胸糞要素の好みが分かれるのと、後続作ほどの強度や広がりや洗練があるとは言えないのも要因だと思う。
しかし私は大変好きだった。自分が1歳の頃に発売された、主題歌すらない古めかしいエロゲだけれど今の私に直球で響いた。そんな壁を余裕で突き抜けるような純度で訴えかけてくれる物凄い作品だった。
そしてここから全てが始まるのだという予感を、時を超えて感じさせてくれる"原点"だった。
22歳の麻枝 准のようなハングリー精神を持って現実に臨むことはとても出来そうにないけれど、MOON.をインストールしたことで私の世界は確実になにか変わった。例え表層の私がこの余韻を忘れ去ろうと、MOON.をプレイした私が消え去ることはない、というのはELPOD的すぎるだろうか。
まあ引き続きKey・麻枝さん・久弥さんの最新作を追いつつ、冬になれば私も23歳になるだろうから今度はONE〜輝く季節へ〜をプレイしたい。しかし今のモチベーションだと、それまで我慢できる気はしない・・・。