Key作品の感想など

5月2日 Long Long Love Songを聴きながら

久々によく晴れた。それも春の穏やかな晴れ方ではなくほぼ夏の日差しだった。

ダラダラ起きて家にいたらうんざりしてきて昼頃あてもなく外に出た。歩き回っていたらバスを見かけて用事もないのに乗りたくなった。

バスは殆ど使わないがたまに乗るたび「Bus Stop」および「Long Long Love Song」を聴いている気がする。夜だと「Love Song」の「氷時計」を聴くことも多いがここは迷わず、夏のように晴れた街を眺めながらLLLSを聴くこととする。

席に座って即「僕らだけの星」を耳に流す。夏が雪崩れ込んでくる。全然夏の歌ではなく冬の歌で、LLLS自体夏の歌など「Rain Song」くらいだがLLLSはやはり夏だ。それは勿論発売が2017年7月26日だったから。

2017年の夏、自分の中で「あの頃」と呼んでいるあの頃は自分の最も良い時間だった。思い出一杯の夏!とかリアル充実ということではなく、何もしないで日々を過ごせた最高の一時だった。LLLSはあの頃を一緒に過ごした友達で、いつも自分をあの頃に帰してくれる鍵のようなアルバムだ。

単語帳の最初の方ばかりよく覚えるように、アルバムの最初の曲ばかり印象が強まることは往々にしてあるが「僕らだけの星」も割とそうで、やはり含んでいる記憶の質が濃い。否応無くワクワクさせられる。

車窓越しの風景も相まってかなり没入していたら、卒業記念に僕らだけの星を探してきみの手を握ったことがまるで自分の記憶のように感じられてきた。今までそんなことはなかったのに不思議だ。居もしない「きみ」の存在がありありと迫ってくる。

続く「Bus Stop」で切ない気持ちに浸る。これも冬の歌なのに夏らしい車窓とよく合う。ある夏に買って聴き続けた"冬の曲"にはそれでも夏の記憶が刷り込まれるということか。

「バスが停まる 次の町へ」でちょうどバスが停まればどんなにエモいことかと毎回思うが毎回そうはならない。大体次の町へ行くほど長くバスに乗らない。とはいえ今日は「もうきみの知らない僕でいるよ」と聴きながら、家でダラダラうんざりしていた自分の知らない自分に今はなっているという気持ちになれて良かった。

「小説家とパイロットの物語」も抜群に良い。音が風景に同化する。ハマり込んでいたらまた自分のことのように聴こえてきて驚いた。居もしない「きみ」が確かに「好きだった」と思う。

結構久々にLLLSを聴いて、女性一人称の曲が多いと今更気付いた。自分(女性)はむしろ女性一人称の恋愛ソングには感情移入しにくい方なのだが今日はやけにシンクロしてしまう。

そんなに長くは乗っていられず、ショッピングセンターの前でバスを降りた。しばらく店をうろついてから再びバスに乗り、帰路もLLLSを聴く。降りてからも軽く歩き回ったりしながら味わった。いやあどの曲も良い。日差しと共に良い音が染み込んでくる。

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夜になり「「Long Long Love Song」制作日誌、時々入院」がどうしても読みたくなり、読んだ。ちゃんと読むのはいつぶりか分からない。購入時ぶりの可能性すらある。安易に読めなかった。

だから凄く新鮮に衝撃を受けた。これだけの衝撃が薄れていたことにまた衝撃を受け、定期的に読み返さないとダメだと思った。

まず倒れてからの数ヶ月間について、麻枝さん、これだけの地獄をよく乗り切ったな・・・と呆然とした。読んでいられないくらい辛く、自分だったら耐えきれないと思った。麻枝さんだって耐えきれないだろうが、耐え抜くしかなかったのだと思うともう・・・何と言っていいか分からない。

生きていてくださったことはとてつもない奇跡で、その後仕事を続けてこのアルバムを出せるまでになったのはとてつもなく壮絶なリハビリの賜物だったんだな、と・・・改めてぶん殴られた心地になる。

私は生きるのがうんざりだの何だの言いつつ自力でフラフラ出かけてバスに乗れる身体で過ごせているじゃんかと、それはいつ崩れるか分からない"当たり前"なのだから有り難く受け止めようと、まあテンプレな感想だがこれは結構切実に思った。

そして麻枝さんが「Long Long Love Song」を作りながら綴った正直な日記が改めて良かった。「売れるアルバムを作れるか」「熊木さんのボーカルの良さを引き出せるか」という葛藤の中で悩み、迷い、もがきながらも愛を込めてアルバムを仕上げていく麻枝さんの日々。それを、一日ごとの描写を積み上げるシナリオの名手かつ超長文ブロガーだった麻枝さんの文章で読めるというのはとんでもない贅沢だ。(文章を書くのが下手と御本人は書いていたが私は本当に好きで、身も蓋もない感じになるところも含めて唯一無二の良さがあると思う。)

思い描いた最高の音楽を一発でディレクションできるような天才ではないからこそ、作って聴いてみてはやり直し、またやり直し、関わる人の顔色を伺いつつもそれを二の次にする勇気を持ち、自分が良いと思えるまで何度でも何度でも作り直し、お金がかかろうと納得できるまでリテイクしてもらい、人の意見も取り入れながら自分の信じた方を進み、苦しみ抜いて最初の想定から逸れに逸れた形こそを是とし、不安と自信を持ちながら作品を送り出すというその、愚直で頑固で人間臭くて、それでいて強い信念に貫かれた創作者としての麻枝 准さんの姿勢に改めて惚れ直した。

生半可な気持ちで聴きたくないと思った。

麻枝さんの命と魂が懸けられたこのアルバム。

とはいえ・・・作品鑑賞は作者個人への感情からは切り離した方が本来は良いと思うし、CDにこの冊子を付けることに消極的だった麻枝さんにとってもそれが本望じゃないかとは思っている。批評においては作者の人格に触れた時点で二流という感じさえある。

でも私にとって麻枝さんは特別で、麻枝さんという人間がどうにも好きで、麻枝さんの制作時間ごと作品を受け取りたくなる。その気持ちは麻枝さんが奇跡の生還を果たしたあの時から本当に強くなっているし今日改めて噛み締めた。

と言ってもLLLSは夏のワクワクした空気を連れて旅に出るような気持ちで聴くアルバムで、曲に没入する間は麻枝さんの影が見えてくるわけではない。いやそれこそが本気で聴くということなのか。本気で聴くって何だろう。

リスナーとしての正解を探る時点で本気ではなくて、それぞれがそれぞれの気持ち良さで楽しめば良いのだろうか。作品と真摯に向き合うこと、作品の向こうにいる麻枝さんと真摯に向き合うこと、難しい。何とも言えない。

確実に言えることは、夏らしく晴れた街をバスの車窓越しに眺めながら聴くLong Long Love Songが一番良いということだ。

MOON.雑感

※ネタバレがっつり有り

「MOON.」をクリアし、音楽モードで「陽のさす場所」を流しながらWordを立ち上げた。
サマポケで「Keyっていいな」「ゲームっていいな」「麻枝 准っていいな」が極限まで振り切れた結果、ずっと先送りにしていた「MOON.」と「ONE~輝く季節へ~」を今こそやろうと思い立った。
そもそも中古で買うしかないと思い込んでおり、自分のWindows7で動作するかも分からないソフトに高値を出すのには気が引けていた、それだけだった。今回よくよく調べたらDLsiteにダウンロード版があった。
2作合わせてもさらば諭吉!には至らない程度で拍子抜けした。まさか自分がDLsiteでエロゲを買うとは・・・(女なので)と思いつつインストールを終えた。
この間ONEが20周年で盛り上がっていたし、その後もTL上でONE語りを日常的に見ていたからまずはONEだと思いとりあえず攻略順などを調べていたら、ONEは麻枝さんが23歳の時に作ったゲームだという情報が目に飛び込んできた。
それは22歳の私にとって衝撃的な事実だった。最近麻枝さんの新しい作品に接すると、自分よりも麻枝さんに近い感覚で言葉を受け取れる40代の方々が羨ましいと思うようになった。羨ましいというか、早くその年齢になってその歌を聴いてみたい、早く追いつきたい、とかそういう考えが浮かぶようになった。
気付かぬうちに私は過去の麻枝さんになら追いついていた。盲点だった。しかし、ということは、ONEより前に出たMOON.はもしや・・・。
当たっていた。新卒で入ったゲーム会社を早々に退職し、新たな会社で麻枝さんが初めて企画し世に送り出したゲームが「MOON.」だった。
年齢を言い訳にできない分、突きつけられる彼との距離に絶望するかもしれない。急にそう思って少し躊躇した。それでも今しかない。これは自分の運命が課した試練かもしれないし、単純に22歳の麻枝さんの原点に22歳の今踏み込めるのは贅沢なことだ。だから翌朝からプレイしようと決意して昨夜は寝た。
そして日曜日の今日、朝から夕方までFARGOの施設で過ごし、帰ってきた。

私は・・・。
生きようと思った。強く生きよう。どんな過去も、どんな痛みも、なかったことにして忘れないで、そこにいた人たちを忘れないで、受け入れて、胸にそっと閉じ込めて。
自分の精神から、過去から逃げないで、美しい思い出に逃げないで、そうしてここから生きていく。この日常の世界で未来へ向かって生きていく。誰かに、おかあさんに甘えないで、私という人間の強さで生きていく。
葉子さんと同じ22歳、私にもまだこれからやれることがある。目を覚まそう。生きていこう。そのための力を郁未たちに貰えた気がする。

このゲームを企画した人は、人間は強い、生きていることは素晴らしい、ただそのことを真っ直ぐ信じている・・・いやもしかしたら真っ直ぐには信じられないからこそ曲がりくねった果てしない道を歩き続け、そうしてやっと誰よりも強くそれを肯定し、信じさせる、麻枝さんはそういう人だと思った。
久弥さんとの合作である以上、どこまでが麻枝成分なのかは分からないし、そもそもテキストが全て作家個人の想いを反映しているわけもないけれど、今まで麻枝さんの色々な作品に接してきてその原点にやっと触れたのだから感じ取れてしまう。麻枝さんは人間の強さを信じている。生を肯定している。最初からずっと、物凄い強度で。
このゲームの向こう側にいる麻枝さんと私は同い年、というのは常に意識はしなかったけれどハッとするテキストに出会うたび思い出した。神と張り合うつもりはないけれど、やはり今の私からは絶対に出てこない言葉だなあと思った。それらが久弥さんのテキストだったとしても同じことで、今の私が当時の久弥さんの年齢であろうと私にそれは書けない。
それはプレイ前に想定していたような絶望ではなく、なんだか嬉しいことだった。憧れの人がやっぱり届かない存在であること。彼らの作品に巡り合えた自分。自分も一応彼らと同じ人間であるということ。
先日のKSLライブやSatsubatsu Kids(麻枝 准×ひょん)の「Hikikomori Songs」リリースイベントで、自分より遥かに大人の方々が燃えさかる麻枝愛を全身から放出させている姿を見て感銘を受けていたけれど、古参の鍵っ子あるいは麻枝信者のおじさま達からしてみればMOON.やONEやKanonを通して麻枝 准という若き青年の天性に魅了されたところから全てが始まったわけで、そりゃああれだけ熱狂するし場合によっては人生懸けるよなと急に物凄く納得した。

それでMOON.というゲーム、すごく面白かった!とても好きだった!
想定より短かったけれど、コンパクトな中にしっかりとメッセージが詰め込まれていて良かった。まあ多分私がプレイしたのは新しいバージョンでマップ探索がしやすかったのと、思いっきり攻略サイトを見てCGコンプ無視で進めたから速かっただけで本当はもっとボリューミーなゲームなのだろう。バッドエンドの分岐にはとても耐え切れる自信がないから今後もやらないつもりだ。
まず驚いたのはオープニング。アニメじゃん!あれも実は新しいバージョンで追加されたのだろうか。だとしても古いノベルゲームでアニメが長時間流れるのは想定外すぎて感動が止まらなかった。
晴香と由依との出会いは体感的には20日前のことだからかなり懐かしく感じる。晴香は出会った瞬間からすごく好ましくて出会いに感謝したし、由依はいささか賑やかすぎるけれど一緒になれて安心した。いたるさんの立ち絵が本当に可愛くて、特に晴香は自分の理想のヒロインそのもので最高だった。服装もことごとく好みで、00年前後のコミケに行ってMOON.コスのレイヤーさんを撮りたいという感情で一杯になった。(余談だけれど途中なにかのCGで「Tactics」のロゴが入った服が登場して大いに笑った。)その後出てくる男子勢もかっこよくて流石だった。
最初から緊迫感がすごかったけれど、晴香が「仲良し三人組で2泊3日の香港足裏マッサージツアーに来てるわけじゃないのよ」的なことを言った瞬間この作品は紛れもなくKeyの源流だと感じて安心した。
それでFARGOの適性検査を受けて、真実を求めるあの日々が始まったわけだけれど、1997年に発売したゲームとしては予想以上に攻めた設定に思えて、逆に危うさなど度外視で強い意志を持ってこの内容を企画したのかなと感じた。私は当時1歳だったからなんとも言えないけれど・・・。
郁未が始めたのは過酷な旅で、施設は怖いしMINMESでの訓練も恐ろしいし葉子さんはとっつきにくいし少年も微妙に怪しいし晴香の変貌から察せられる別棟の状況もおぞましかったけれど、非日常的な閉鎖空間で暮らして動き回るのは謎のワクワク感があって楽しかった。
日が変わるごとのタイトル表示がAngel Beats!の9話のようで、地下通路もAB!的なダンジョン感があって、そこらへんで割とテンションが上がってしまったのもある。
しかしながら郁未のELPODで一気に精神をやられてしまった。屋外で排泄している過去の郁未を見るだけなのに、自分自身が恥辱を受けていると錯覚するほどの痛みがあった。
それとは別ベクトルのキツさが由依の凌辱シーンにはあり、そのような感じでこのゲームの2軸のエロシーンがとにかく最後まで精神的に辛かった。一応凌辱系エロゲとして売り出された作品だけれどユーザーは皆こんな気持ちになっていたのだろうか。自分が女だからこそ辛さを過剰に感じたのだろうか。それならそれで良い条件でプレイが出来てラッキーだったと思う。
序盤は由依と友里の物語だったけれどエロシーン以外もひっくるめて全部辛かった。Key作品でよくいるちょっと痴呆っぽいヒロインやめっちゃ叫ぶヒロイン、サマポケにはいなかったから反動でウッとなったのも地味にダメージだった。元凶は由依を襲った暴漢なのに由依が家族崩壊の元凶扱いされるのは可哀想で見ていられなかったし、由依に殺されかけた友里が全てを忘れ去った由依に直面するのも可哀想で見ていられなかった。
それでも、忘れたままでいたかったはずの過去を思い出し、受け入れる強さを得て「頑張る」と決めた由依は強くて眩しかった。最後の最後で心を解き放ち、由依の願いを叶えて潔く死を遂げた友里はかっこよかった。悲劇だけれど決して悲劇ではない、美しい姉妹の絆だった。
由依が友里に縋りついて何度も何度も「お姉ちゃん」と呼ぶシーンはこみ上げるものがあり、これがKeyの原点だとしみじみ思った。
そこから次は晴香の話につながっていくわけだけれど、その間にも郁未の訓練や少年との関わりは続いていて実に色々なことがあった。あくまでメインはマップ移動で紡ぐ午前・正午・午後・夜だというのがなんというかやっぱり面白かった。サマポケのMAP散策も面白かったからそういうのが好きなのかもしれない。
しかしまあ、MINMESもELPODも段階が進むにつれ苦しくなっていったし、晴香絡みの凌辱シーン、つまり高槻登場以降が本当にきつくて参った。そんな時にはどうしても同居少年にほっとしてしまうし、ふとした瞬間に流れる折戸さんのちょっと日常っぽいBGMに救われた。
そう、季節感もクソもない暗い施設に流れる折戸さんのBGMというのが、その後のKeyを知っている身としてはなんだか変で、でも絶妙にマッチしているのが不思議で良かった。
晴香の結末は大変辛かった。良祐の最後の抵抗が悲しかった。由依と友里のような時間が訪れるでもなく、最後の最後の力で妹を抱きしめて滅んだ良祐・・・。兄としての矜持がとても美しくて悲しかった。
その前の郁未が晴香の性器を舐めさせられるシーンがこの作品で一番えぐかった。やりすぎやろ!つらい・・・。
最後は郁未と少年のターンになるわけだけれど、私は良祐の忠告を聞いてもなお少年への好意は捨てきれなかったし、郁未の妄想話の中の少年がすごく良くて・・・だから少年が郁未を助けたのはすごく良かった。ちょっとここら辺は記憶が混濁しているし語彙力も混濁している。
覚えているのはあの梯子!(笑)下っても下っても最下層に辿り着けない、無限に続きそうな下降。気が遠くなりそうだった。郁未は相当強い意志を持っていると実感した。
それから再会した少年が明かした教団の真実。なるほどなあと思った。詳述するのも野暮だからやめておくけれど、AB!の真実を知る回のような感嘆があった。
少年を救うべく辿り着いた部屋は広大な花畑で、サマポケで見たなと思いつつ郁未が少年を救うのを見届けようとしたがその期待は一瞬で絶たれた。
少年の抹殺を感知した郁未は3日間のDESPAIR、絶望の日々を送る。それまでの午前・正午・午後・夜の時間感覚が染みついていたから、絶望しきった顔の郁未の一日が何の動きもなく一瞬で終わっていくのは異様すぎた。ちょっとCarlotteの7話を思い出した。
そしてついに最終決戦、20日目。異常事態すぎて本当に記憶が混濁しているのだけれどたしかMINMESで少年に会ってすごく良いシーンがあって気力を取り戻して最後の扉を目指して、葉子さんとの再会があった。二人が交流していた唯一の場所である食堂での対決には唸らされた。葉子さんの過去もヘビーだったけれど、外界への帰還に導けた郁未はすごい。今は消費税5%になってるから気を付けてね。えっ消費税って?のくだりに初めて時代を感じて笑った。
食堂といえば、序盤に二人でご飯を食べていたころ、あんな世界観だけれどちゃんと食べ物の描写がなされているところにKeyの源流を見出したりしていたのだけれど、3回目の食事くらいで皿うどんが出てきて本当に驚いた。皿うどんといえば麻枝さん、麻枝さんといえば皿うどんだけれど、皿うどんが麻枝さんの作品に、しかも一番最初の作品に出てきていたことは知らなかった。嬉しかったし、大いに笑った。
それで郁未がラスボス戦に臨んでいる最中かその後で、その頃・・・のようないつものテロップが出て晴香と由依のシーンが挿入された。晴香が生きている姿を見てほっとした。
というかこのゲーム、語り手が女の子という時点で新鮮だったけれど、テロップを挟んで別の女の子の視点に切り替わるのがまた新鮮で、それいいんだ!?と、凝り固まったシナリオゲーム観をほぐされた気がした。
それで、由依があのまま脱出せずにおそらく施設内で信者を救うべく動いていたらしきことが発覚して由依の成長に感動した。その由依が、過去から目を背けようとする晴香に向けた叱咤の言葉が本当に素晴らしかった。もう一回読んで全文書き写したいほど素晴らしかったけれど今はニュアンスだけ心に刻んでおく。とにかくあのシーンがあったから強く生きる意志のようなものが私に伝染した。
郁未のラスボス戦に話を戻すと、黒幕が月だったことでようやく「MOON.」の意味が分かりおお~と思った。郁未は本当に強くて若干チート感があったけれど、今までの郁未を見てきたからそれも然りだと思った。精神を飲み込まれそうになった時助けてくれたのがあんなに忌々しくて怖かったもう一人の郁未だったことにすごくグッときてしまった。
最後の、おかあさんと話すシーン。良かった・・・。
ただただ良かった・・・。
エンディングのタイミングが意外と唐突で、納得は出来るけれど驚いてしまって、エンディング後のエピローグもなさそうだしちょっとどうしようかと思っていたらエピローグはあった。100点満点のエピローグにとても救われた。だからこんなに読後感が良いのかもしれない。
FARGOから解放された今あの施設時代を振り返ると、あんなに辛かったことも含めて全てが大切だった気がしてくる。郁未たちも今そういう気持ちであってほしい。

総評すると非常に良いゲームだった。この作品に似つかわしくない表現だけれど、楽しくプレイできた。
郁未が「自分」と「母」を解き放つ過程に少年との交流があり、晴香と由依と葉子の物語があり、若干粗削りかもしれないけれど全てに意味のある鮮やかなシナリオだったと思う。教団の精神鍛錬も洗脳の手段などではなく本当に精神を鍛えるもので、それが郁未を無意識下で鍛えて最終的には教団に刃向かう力を醸成させたというのが面白い。毎日の訓練を乗り越えたことにきちんと意味があったのは大きい。訓練の内容を全て記憶しているプレイヤーだからこそ特にそう思う。
当時のエロゲというかADV界隈がどのような様相だったのかはもう体感できないけれど、主人公に女性を据えて親子愛を話の主軸にして恋愛要素を最低限にしてエロシーンの“抜き”要素をサブに追い込んだようなこんなゲーム、相当革新的だったのではないか。音楽もしっかりしているし絵も不思議な魅力があって、発売当初にこの作品に魅了された人はさぞ彼らの今後を楽しみにしたことだろう。
その未来を知ってしまっている身からするとMOON.の物語や雰囲気はAB!に近いというかこれこそがAB!の源流だと感じた。一応伏せるけれど核となるメッセージの一つにはサマポケを感じた。Keyから切り離して考えることは私には無理だけれど、Keyを知っているからこそ味わえる深みが沢山あって面白かった。
シナリオの担当区分が全然分からないのだけれど、少なくとも由依のクライマックスは久弥さんな気がする。殺伐とした世界観、ダンジョン探検RPG感、親子愛を基軸とした壮大な生の肯定はすごく麻枝さんっぽいのだけれどその後ONE、Kanonへと続いていくのは由依や晴香のお話のような気がした。久弥さんがメイン説もあるから見当外れかもしれないし、まあ彼らの間には色々あっただろうからこれ以上は考えないでおく。
同い年として言わせてもらえばこれを企画した麻枝 准さん(22)は明らかに天才であり、自分と比べたらまさにMOONとスッポンだ。才能だけでなく、情熱を滾らせて果敢に攻めるファイターのような印象すら直に伝わってくるようなデビュー作だった。麻枝さんが心理学科を卒業したばかりだということを思い出させる要素も多々あった。まあ何が言いたいかって、月が綺麗ですね、麻枝さん。

昨夜はここまで書いて力尽きて寝た。起きたら月曜日が来た。思いっきり寝不足でもう今日は体調不良で施設(比喩)をブッチしようという気持ちしか湧かなかったけれど、その時脳内に去来したのは少年に「おはよう」と起こされて毎日根気強く訓練に通い、寝不足の日も食事抜きの日も仲間と真実のために歩みを止めなかった郁未の強さだった。
過酷な現実にも負けない強さ。リトバスに出てきた言葉だけれど、それを郁未たちに手渡された。もう逃げないで直視するんだ。
寝て記憶が整理されたせいか、朝ご飯を用意する最中にも断片的なシーンの記憶が次々と浮かんでくる。自分のことのように感じられるものも多く、主人公が女性であったことは思っていた以上に自分の感情移入を促進したのではないかと気付いた。
それで今日はMINMES(比喩)に向かい、今日中にこれを書き終わろうと決意した。
Twitterを開くと昨日投稿したMOON.を始めた旨のツイートにそこそこ多めの反応が来ている。希少性もあるだろうけれど、みんなMOON.が好きなのだと思う。私だって今後「MOON.始めた」ツイートを見かけたらいいねするだろう。
MOON.は一定の熱狂的ファンはいるものの人気としてはONEの影に隠れているようなイメージだった。胸糞要素の好みが分かれるのと、後続作ほどの強度や広がりや洗練があるとは言えないのも要因だと思う。
しかし私は大変好きだった。自分が1歳の頃に発売された、主題歌すらない古めかしいエロゲだけれど今の私に直球で響いた。そんな壁を余裕で突き抜けるような純度で訴えかけてくれる物凄い作品だった。
そしてここから全てが始まるのだという予感を、時を超えて感じさせてくれる"原点"だった。
22歳の麻枝 准のようなハングリー精神を持って現実に臨むことはとても出来そうにないけれど、MOON.をインストールしたことで私の世界は確実になにか変わった。例え表層の私がこの余韻を忘れ去ろうと、MOON.をプレイした私が消え去ることはない、というのはELPOD的すぎるだろうか。
まあ引き続きKey・麻枝さん・久弥さんの最新作を追いつつ、冬になれば私も23歳になるだろうから今度はONE〜輝く季節へ〜をプレイしたい。しかし今のモチベーションだと、それまで我慢できる気はしない・・・。

サマポケ日記 7/7

July 7th

昨日見届けたばかりだというのに、サマポケの物語が夢であったかのように少しずつ遠のいていく。でも思い出のかけらはポケットに残っている。だから大丈夫だ。

他者の感想にようやく触れられるようになり色々見てみたが、概ね評価が高く「Keyは健在」の声も多い。そうだろう。個別ルートの好みや涙腺崩壊ポイントは案外バラバラで面白い。私は個別では紬が断トツで、紬ルートの人気は確かに高いようだけれど割と四ルートとも同じくらいのファンをつけている印象だ。圧倒的な確固たる物語を差し出されたというよりは、プレイヤーそれぞれとの響き合いの中でそれぞれの物語になった、というようなことを考える。それはとてもいい。

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今日は秋葉原でコラボドリンクを飲んだ。結局しろはのドリンクが美味しそうだからしろはにしたらコースターもしろはが当たった。スイカの味がして美味しかった。アルカテイルが流れる度に泣きそうになった。街を歩くとやたらかき氷が目につく。わたあめとチャーハンも見た。この夏はきっとずっとこの調子だろう。いやこれから一生かもしれない。反応してしまうKey的飲食物が増えた。

ここのところサマポケにかかりきりだったから明日からは他のことをしつつ、卓球や島モンにも挑戦できたらいい。この日記は一区切りとするのかもしれない。ALKAとPocketの感想はそのうち何かにするかもしれないしこのまま何も書かないかもしれない。

夏は昨日終わったつもりでいたけれど、本当は今日から私の夏が始まったのかもしない。

サマポケ日記 7/6

July 6th

はっきりと目が醒めるまで数時間くらいうなされていた気がする。記憶は朧げだけれど羽依里やしろはの姿がぐるぐると巡っていて、何かが怖くなって、うみちゃんを忘れそうになって、忘れていなかったと安堵して・・・本当にそんな夢を見ていたのかもう分からなくなり始めている。

ALKA、凄まじすぎて何も言えない。画面を前にしてアー・・・・・・ハー・・・・・・マジかー・・・・・・の連続で、最初の頃を思い出してあれもこれもそうだったのか、そういうことだったのか、羽未ちゃん・・・・・・の連続で、その果てに、花火を見ながら感極まって、もう、いっぱいいっぱいだった。今は何も書けないからこのままPocketへ進む。歩き続けることでしか届かないものがある。

Summer Pocketsをクリアした。

メニュー画面に帰ってきて、離れがたくてEXTRAをぼんやり見ていたら画面作成機能が追加されておりつい裸の天善と良一を並べて遊んでしまった。絶対今じゃなかった。

まず、クリックしながら本当に泣きましたと、ボロッボロに泣きましたと麻枝さんに、魁さんたち全員に伝えたい。Keyは健在です。羽未ちゃんとしろはの最後のひととき、鳴咽が止まらなかった。ボロッボロどころじゃない。具体的に言えばティッシュ6個分泣いた。ティッシュを取る動作すら惜しくてすごく我慢して節約して限界まで使ってそれだ。「ポケットをふくらませて」の畳み掛ける部分でまた泣いた。

感想はもう少し落ち着いてからにしたい。今はぼんやり浸る。

終わっちゃったなあ。

テレビで大雨情報が報道されていた。木が一本立っていて、辺りは一面泥水。そんな光景が目に飛び込んできた。涙が出そうになった。カメラが引いたら、木は一本ではなかった。それでも泣きそうな気持ちは止まらなかった。

サマポケ日記 7/5

7月5日 天気 くもり

目覚めた一秒後から昨夜プレイしたサマポケを反芻する朝が続いている。今日は真っ先に「鴎」と思った。

鴎との夏休みを想うと胸に爽やかな風が吹き抜ける。色々あったけれど鳥白島であんなにワクワクする冒険ができて楽しかったというのが一番にある。

初めて会った時から鴎の親しげな雰囲気やお茶目な口調が好きだったけれど一緒に冒険するようになってからはますます魅力的に見えて可愛くて仕方がなかった。制服姿を見た瞬間の感動は凄まじかった。あんなに制服似合う子いるか。メイド服も似合いすぎだ。私服も可愛い。あの子がどんな子であれ、あの子と夏休みを過ごせたことがすごく嬉しかった。

手紙をくれた子たちのために鴎が叶えようとしたこと。羽依里がそれを受け継いで懸命に頑張ったこと。そういうのに普通に胸を打たれた。鴎は皆の記憶からいなくなってしまったけれど、カモメのことは沢山の人が覚えていて、羽依里のおかげでこれからも絶対に忘れない。それがよかった。鴎はかっこいい女の子で、羽依里も負けないくらいかっこいい男だ。

話の展開としてはミスリードが上手くて全然予想ができなかった。最初は羽依里が島に来たことがあるという展開を鴎ルートでやってしまっていいのかとハラハラしていて、初恋の女の子は小説の主人公というくだりでおや?と思い、鴎の身体のことを知ってなるほどと思い、それでも鴎が消えた途端わけがわからなくなり、羽依里が真実に気付くシーンでは一緒に唸った。七影蝶のことはだんだん謎になってきたけれど眠っている子が実体化することには何の疑念も持たなかった、鍵っ子だから!

お母さんと話すところや海賊船の帆を張るところでは涙が滲んだけれど、ボロ泣きすることはなくて最後までどこか爽やかな気持ちだった。いい話とまとめるのは違うけれど、胸のポケットにしまっておいて時々思い出したら元気をもらえるような、羽依里にとっての「ひげ猫団の冒険」のようなお話だった。島の皆がやっぱりいい奴らなのもよかった。

エピローグで希望を見せてくれるのは全ルート共通なのかもしれない。世界中を回ってきた手紙はずるい。羽依里が鴎との日々を共有する仲間がいないのが寂しかったしいたらボロ泣きだった気もするけれど、羽依里が一人抱えた愛を胸に七つの海を旅して鴎に会いにいくというのはロマンティックでそれはすごくいいなあと思う。

今までどなたがどのシナリオを書いたのか気にしないようにしてきたけれど鴎ルートの鮮やかな感触がどなたによって紡がれたのか気になって調べたら新島夕さんがしろはと鴎、魁先生が蒼、ハサマさんが紬らしい。新島さん、いいじゃ〜んとか思った。それでその調べる過程で今まで情報回避として避けていたサマポケ開発日誌をチラ見したらライティング合宿の様子が書かれていて、机の上に各人のパソコンが並べられた写真を見て胸が一杯になった。 サマポケのスタッフさんたちがそれぞれの途方も無い道筋を孤独に、それでも一緒に進んできた日々に想いを馳せるとなんだか泣きそうになるし誠意を持ってプレイしようと思った。

そういえば蒼と紬をクリアしてメニュー画面が残り二人になった時点でReSTARTのボタンが出現し、どうなるんだろうと思いながら進めたがどうにもなっておらず、ただうみちゃんとのくだりだけスキップ不可の新テキストになっていて変だなと思っていたら途中でやっと気付いた、うみちゃんがタメ口になり「鷹原さん」ではなく「羽依里さん」呼びになっている。個人的にうみちゃんは敬語の方が可愛いけれどそれよりこれは、どういう意味なのだろう。しかも終盤にうみちゃんが帰ったと知らされるシーンもあった。なにか不穏なものを感じてしまう。まさかうみちゃんは羽依里との夏休みを繰り返して・・・?とか思うけれどどうだろう。

ついにメニュー画面にいるのがしろはだけになり、いよいよだなあと思う。しろはがメインだろうからしろはを最後にやってその後に繋げようとしてこの順番を選んだのだがまあ割とよかったと思う。最初に蒼ルートをやって七影蝶を知ったのがかなりよかった。鴎ルートが二日間に渡るかと思いきや案外短くて予定が繰り上がり、今夜からしろはルートが開始される。ここまで各シナリオでしろはの魅力をさりげなく感受してきたわけだからしろはに踏み込むのは楽しみだ。

と思っていたら連日の気候と労働環境の影響だろう、風邪のような雰囲気になりそれを免罪符に今日の労働をなきものにした。これよりサマポケ療法を開始する。

4周目、ReSTART2回目、うみちゃんがさらに幼児退行している。ひらがなで喋ってくる。おにーちゃんと呼ばれる。チャーハンが美味しくない。「鷹原さん」と呼んでくれた知的な印象のうみちゃんに会いたくて切なくなってしまう。これはなんなのだろう。プレイヤーそれぞれにとっての萌えるうみちゃん像を提供するサービスにすぎなかったらどうしよう。

買い出しに行って思わず氷菓の棚を見たらそれは一瞬で目に飛び込んできて逡巡のち購入された。

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・・・。

それでしろはルートは無事にクリアされた。無事でよかった、本当に。堀田ちゃんのお父さんが出てきてアーーーとなって行くなバカと画面に向かって言いたくなって、でもそうは言えないし、本当、どうなることかと思った。

「ALKA」の字が追加された新しいタイトル画面を感慨深く眺め、新しいBGMをしばし聴いていたところ一瞬独特のメロディーに身体を引っ張られこれは聴いてはいけないと何故か思い急いでEXTRAのBGMコーナーに飛んだところやはり麻枝 准だった。聴いてはいけない気がした。

それでしろはルート。そういうの、辛いね。と言ったしろはが味わってきたもの。羽依里が味わってきたもの。聞いているだけで苦しくなった。でも、翼の傷ついた鳥が二羽出会い、お互いがお互いに新しい風を吹かせていく、そんな夏休みはどこまでもよかった。すごくよかった。

一人で泳ぎを練習して最善を尽くそうとしていたしろは。誰かを巻き込みたくない、羽依里を巻き込むまいと必死になっていたしろは。強いしろは、でも全て自分のせいだという意識に苛まれ続けるのはどれだけ辛かっただろう。消えてしまいたいと思い続けるのはどれだけ・・・。羽依里がああいう奴で、まっすぐ
踏み込んでいきながらさりげなく寄り添える奴で、いざという時にきちんと選べる奴で、そんな羽依里が鳥白島に来て、しろはを見つけられてよかった。

今まであれだけ距離があったしろはと段々仲良くなっていくのはすごく楽しかった。意外と笑ったり、料理が上手かったり、卓球が上手かったり、着ぐるみ案にあっさり納得してペケモンになってしまったり、義理堅かったり、気付けば皆の輪に入れたり。あの子はすごくいい子で、あんな感じだけれど一緒に遊ぶとすごく楽しかった。そりゃ良一も好きかなって思うよね、うん、意外だった。

島の皆はやはり頼りになるいい奴らだった。男衆も蒼も勿論だけれどのみきが毎回有能でいい奴すぎる。皆羽依里の頼みを嫌がることも疑うこともまずなくて、羽依里が頼ろうとした時点で協力体制ができている。鳥白島で羽依里はかけがえのない仲間を得たのだと思う。屋台をやるところなんて本当に楽しくてちょっと羨ましかった。

神域で見たうみちゃん、海中で見た七影蝶、謎を残したまま割とあっさりと、恋の予感を残したまま終わったしろはルートだけれど、このままどう核心に繋がるのだろうか。エピローグ後の語りもずっと意味が取れない。攻略サイトによればALKAはうみルートらしくて、やはりうみちゃんが鍵なのか。とにかくやるしかない。

ALKA TALEをクリアした。

波の音を聞いている。

波の音をずっと聞いている。

サマポケ日記 7/4

2018年7月4日

昨夜は無事に紬ルートがクリアされた。何から言っていいのか分からないけれど本当に素晴らしい名作で、久しぶりにボロクソ泣いた。

てっきり海外のお嬢様かなにかだと思っていたら嘘だろ・・・という展開になり、あのBGMも相まって何度も鳥肌が立った。あれだけ愛おしかった紬が怖いと思ってしまった。

だから、紬は紬、紬を信じて、紬がどんな子だとしても最後まで思いっきり楽しく過ごそうと決めた羽依里にはハッとさせられた。本当に羽依里はかっこよかった。鷹原羽依里!

紬と羽依里には沢山のことを気付かされた。別れが来るなら恋人になる意味はないなんてことはない。いなくなってしまう子のために一生懸命頑張るのは意味のないことなんかじゃない。

どうせ死ぬのなら生まれてくる意味はないとすら思うことがあった。そうではないのだと教えられた。いつか悲しい日が来ると分かっていても彼らは一日一日を全力で楽しんでいた。

無限に続くような夏休みの、明確なタイムリミット。夏を書き綴るノートの終わりが近づいてくる。サマポケ共通のテーマがそこにある気がした。花が散るまでに藍を見つける、紬がかえるまでに一生分の思い出を作る、その中で彼らは信じられないくらいの輝きを放つ。

私はとにかく8月31日、三人で昼まで寝て、起きて、紬の言葉が聞こえなくなって、静久がもう行くと告げた、もうここで会うのは最後と、そう決めていたのだと言ったその瞬間からゴウゴウに泣いた。この夏一緒に紬を愛してきた静久が、どれだけかの想いを抱いたまま潔く去っていく。あそこで泣かないのは無理だった。

鳥白島の皆も本当に優しくていい奴らで、やっと心から彼らをかけがえのない友達だと思えた。外の人と島民という境目が気にならなくなり、新作ゲームの見知らぬキャラという意識も最早なくなった。紬のために、紬に最高の思い出をあげたい羽依里と静久のために、誰一人嫌な顔せず、言葉少なに腕をまくり、楽しそうに毎晩頑張ってくれた。頼もしくてありがたくて泣きそうになる。

紬はたくさん泣いちゃったけれど、最後の最後は笑顔で、強かった。あの歌が流れ始めてそれは本当にずるいよと頭を抱えながら慎重にクリックを進めた。この夏の思い出を全部全部詰め込んだあの歌。今でも口ずさめる。むぎゅぎゅぎゅぎゅー、むぎゅぎゅぎゅぎゅー、むぎゅぎゅむぎゅぎゅぎゅー。

紬と静久と三人の夏。全てやり切った夏。鳥白島のみんながいた夏。紬と恋をした夏。思い出すのはやっぱり、紬の笑顔とあのメロディー。きっと忘れない。

エンディング曲が流れ始めた時の、ああやりきったんだという不思議な達成感、感極まって拍手したくなるような心地、すごく良かったなあ。このシナリオはこれで完全に終わったと思っていたから、エピローグがあったことにはすごく驚いた。羽依里とツムギちゃんが出会った"意味"の答えに触れて、最後に紬の笑顔が見られて、まあ紬が消えるのか消えないのかはどっちでも良かったのだけれどやっぱりすごく嬉しくて安堵のため息をつきまくった。

ああ〜良かった。なにもかもがすごく大切だった。これからも大切にしていきたい。泣きは重視しないとか言っていたけれどいざボロボロに泣いたらやっぱりKeyはこれだと思った。水織静久さんに泣かされるとは思わなかったけれど。天善が惚れ込むのも分かる。

にしてもサマポケ、思っていた100倍は面白そうになってきた。神隠しの灯台から七影蝶を見たときマジかーーーと思った。エピローグ後の語りもあの花畑、あの神域に似た景色。そういう核心部を除いたとしても、終わりが来る夏休みの中でヒロインや仲間達と心を交わすことがすごく大事な何かを自分に与えてくれる気がする。今年の夏は良い夏にしよう。

止まらずに今夜は鴎ルートを進めてみる。待ちわびていた攻略サイトを作ってくださった方もお見かけしたが、ヒロインをクリアする分にはMAPでヒロインを追えばいいだけだろうから結局見ずにやっている。簡単な仕様なのに何故私は最初バッドエンドに進んだのかと思わんでもないが、調べてみると島散策が楽しくてフラフラして帰ることになった同志は案外いるようだ。全部クリアした後は、天善ルートに入れるかは分からないけれど毎日特訓しに行きたい。

それで夜が更け、鴎ルートをクリアした。感想は明日にして、眠りの冒険へ出発する。

サマポケ日記 7/3

July 3rd

時間を売って賃金を得るアレをしていたら魂がものすごく濁ってしまってもう何もかも無理だと思った瞬間声が聞こえた。

「むぎゅ」

そうだ、家に帰れば紬が待っている。咲き誇るひまわりのような笑顔で、爽やかなメロディーの中で。むぎゅが隣にいたらこの状況も和やかに変えてくれるのだろう。むぎゅのためならばなんだって出来る気がする。早くむぎゅと遊びたい。むぎゅ。むぎゅむぎゅむぎゅ!

という具合に紬のことばかり考えていたら本当に元気が出て驚いた。誰かを想って活力が湧くということの素朴な美しさに感激して自分も人間らしくなれたなあとか思った。

紬はもしかしたらKeyの女性キャラの中でも一番好きになるのかもしれない。今までは佐祐理さんだった。とりあえず週末飲むコラボドリンクはむぎゅのワタアメのドリンクに決定された。そういえば紬と静久と三人で過ごす日々は舞と佐祐理さんと三人で過ごした日々のワクワク感に似ていてだからこんなにイイのかもしれない。私は羽依里というより静久になりたい。

それで今夜は本気出すから先に書いておくと紬ルートがクリアされそのまま眠るだろう。本当に眠ってほしいから日記はもうアップする。